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2019.09.30 | 社長

令和元年台風第15号の被害を受けて、改めて無電柱化の必要性を考える

この度の台風15号で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。不便な生活を強いられる停電が被害を大きくしているが、その原因の一つとなった電柱倒壊について、改めて、無電柱化をより低コストで早く進めることができるよう最善を尽くしたいと思います。

※以下の文章は、NHKからの取材申し込みを受けて、急遽書いた文章を少し手直ししたものです。

経済産業省は9月13日、台風15号による「停電被害対策本部」を設置し、千葉県を中心に電柱2千本が倒壊や損傷したとの推計を示した。停電軒数は最大で約93万戸と発表されている。
昨年、大規模な停電を近畿地方で引き起こした台風21号と比べても、深刻な被害が発生していると分析した。東京電力の復旧の読みの甘さも受け、電柱や電線が架空にあることへの批判が高まっている。因みに、昨年の台風21号では約1,700本の電柱が倒壊・折損し、その影響で260万戸が停電になった。

この台風を受けて改めて無電柱化について考えてみたいと思う。
欧州のパリ市やロンドン市は電柱が一本もない。ベルリンやほかの地域も街中にはほとんど電柱が立っていないのが現状だ。日本は東京23区において無電柱化率は8%強と大きく水をあけられている。

日本は電線管理者任せでは無電柱化は進まないと考え、昭和61年から電線類地中化5か年計画を国主導でスタートさせた。本来は、海外同様無電柱化は電線管理者が自力で進めるのが正しい姿だが、日本の現状を鑑みて、税金を投入したといえるかもしれない。
最近では、台北(95%)、ジャカルタ(35%)、ソウル46%、バンコクなどのアジアの主要都市にも無電柱化率で大きく後れを取っている。

こうした背景は日本の国民性にあるかもしれない。例えば、第二次世界大戦で主要都市が焼け野原になって、終戦後、経済復興を図る際に有効な電力・通信等の供給手段として電柱・架空線・鉄塔は選択され、それに異を唱える者がいなかったのは想像に難くない。

一方で同じ敗戦国のドイツのフランクフルトにおいて、同じように焦土と化した街を復興する際に、フランクフルト市民は、電柱でなく、元あった古い街並みの再現を望んだという。街づくりに対する、国民の意識の違いが現在の街の景観の違いを産んだのだ。

一目で感じられる美しい景観のドイツ。その理由は国民の意識にあります。

出典:https://www.wikiwand.com

阪神淡路大震災、東日本大震災でも、多くの電柱が地震と津波によって倒壊した。しかし、電線事業者は、被災地へ速やかにライフラインとしての電力を供給するために目新しい電柱を立てていったのは記憶に新しい。他に方法はなかったのかと、忸怩たる思いだ。(そもそも電柱は電氣や通信を供給するための仮設手段なのに。)

また、復興支援の補助金も無電柱化工事に使えなかった。復旧ではなく復興として、無電柱化を行っていれば現在の無電柱化にかかる経費の半分以下の費用で無電柱化を完了できた。(しかも、道路を規制している状態で工事を行えば、工事は早く終わる。)

千葉県館山市船形の状況。引用元:https://www.chibanippo.co.jp/news/national/626251

自然災害の専門家によると、地球温暖化の影響を受けて、海水温の上昇などの要因から、台風の大型化は今後も継続するという予測が出ているそうだ。特にこれまで、台風被害の少なかった、北海道地域や関東などにもこれまで以上の大型台風が来襲する可能性はますます高まるばかりである。実際、昨年の西日本を襲った台風21号では、関西空港で最大瞬間風速58.1[m/s]を観測、今回の台風15号では千葉市で最大瞬間風速57.5[m/s]を観測した。

電柱の風に対する安全設計基準は風速40[m/s]なので、こうした大型台風が来れば、電柱が倒れるのは必至だ。しかも、飛来物などを電線に受ければ、さらに電柱に負荷がかかるのと、そこで簡単に断線する場合もあることから、停電が発生するのが「想定外」にはなり得ない。こうした状況を放置してきた電線管理者の責任は重いと言わざるを得ない。

これらの被害を受けて、多くの市民が不便な生活を強いられるだけでなく、実際の経済損失も莫大なものになると予想される。しかしその実態は不明な点が多い。例えば、商店の冷蔵庫に冷凍されている商品が停電で、廃棄処分になった費用は含まれているのだろうか?(含まれていないだろう)また、電線管理者の復旧にかけた費用の総額はいくらなのか?そうした情報はあまり、公にされていない。
沖縄電力に聞いた話では、毎年の台風被害で数億円の災害復旧費用が発生していると聞く。今回の関東の台風被害では、おそらくその10倍はくだらないだろう。(※あくまで推測ですが、住宅密集度など沖縄地域と関東では異なることもその一因)

出典:https://weathernews.jp/s/topics/201909/120115/

改めて電柱がないことによるメリットとデメリットを考えてみる

こうした状況を踏まえて、無電柱化のメリットとデメリットを検証したい。無電柱化は高コストだ、そんなものにお金をかけるなら、福祉や教育に回せ!という主張も確かにある。しかし、本当にそうだろうか?今回の台風被害を見ても、そう言えるだろうか?

無電柱化のメリットは、国の無電柱化推進法によると、「無電柱化は「防災」、「安全・快適」、「景観・観光」の観点で重要な取り組みである。」とある。まさに、防災・減災の観点で無電柱化は有効である。阪神淡路大震災での被害状況について、地中線は架空線に比べて1/80であったという検証結果も存在している。それもそのはずで、もともと下水、水道、ガスは従来から地中管路である。これは、地中にあるほうが自然災害や人的影響等を受けにくいという判断からであろう(もちろん、見た目のスッキリさへの重視もある)。日本は世界に冠たる、災害大国であることは言を俟たない。地震、台風、津波、竜巻、大雨など昨今の天候を見れば、火を見るより明らかだ。

阪神淡路大震災の状況(芦屋市提供)

それから、安全・快適というのは、歩道の通行に関するものだ。歩道に電柱があることで、幅員が減少し、安全な交通が阻害されている。さらに、歩道のない道路では、電柱による交通事故は通常の交通事故よりも死亡率が10倍に跳ね上がるという調査結果が出ている。5mの幅員の道路でも、電柱があることで有効幅員は4m以下に限定され、車との接触などの危険を増大させている。国土交通省の調べでは、電柱絡みの交通事故等の報道は3日に1回程度発生しているとのことだ。これは、電柱の道路占用を認めている道路管理者にも責任があると言えよう。

最後は、景観・観光だ。増え続けるインバウンドは日本の美しい景観や歴史的街並みを見に来ているといえる。それが、電柱や電線によって、阻害されている。この状況をSNSによって世界に発信されているとしたら、日本の観光行政によって、大きな損失といえる。外国人が日本に来てびっくりするのは、パチンコ店のネオン、電柱・電線、タワー型駐車場という。インバウンド4000万人を達成するには、こうした汚名をいち早く返上する必要があるだろう。

先斗町の電柱と電線(現在、無電柱化工事推進中)

このほかのメリットの重要なものとして、最近研究が進んでいる、資産価値が向上する点であろう。共著「電柱のない街並みの経済効果」で指摘しているが、同じ住宅開発地で、無電柱化しているところと、していないところとでは、資産価値が4~9%も変わるという研究結果がある。実際に外資系のデベロッパーはこのことを意識して、自社開発の新築ビルの前面道路を自費(要請者負担で)で無電柱化している事例もある。また、最近では、京都大学大学院の大庭哲治准教授によると、京都市内で無電柱化の効果測定を行ったところ無電柱化の実施前と後で2割程度の地価の上昇がみられるという。
さらに、観光面でもこうした影響はプラスに働き、顕著な例として、埼玉県川越市の蔵の街では、無電柱化した後に観光客が徐々に増え、実施前の4倍以上になっている。また、三重県伊勢市のおはらい町おかげ横丁でも数倍の観光客でにぎわっている。こうした、地域振興に寄与する事例も出てきている。観光客は、電柱・電線のある風景よりも、過去にタイムスリップした歴史的な風景を楽しみたいのは言うまでもない。

伊勢市おかげ横丁

その他、メリットとしては、祇園祭や立佞武多(たちねぶた)に見られる、祭りの復活や山車(だし)の大型化や(電線が邪魔しなくなるので山車を高くできる)、鳥のフン害、(土の中に埋設することによる)電磁波の軽減、電柱を伝って2階から侵入する犯罪の防止の効果も挙げられる。

一方、デメリットは高すぎるコスト(5.3億円/㎞:内訳は国が1/3、地方自治体1/3、電線管理者1/3)や事業期間が長いといったことがあげられている。無電柱化事業の推進は、当然ながらこれまで以上の低コストへの取り組みが不可欠である。しかし今回の台風15号の経済損失や復旧にかかった費用を正確に算出すれば、それほど高くないのではと予想している(国や行政、電線管理者はできるだけ正確な被害額を公表してほしい)。また、事業期間も、国民の認知や理解が進むことで、工事期間の短縮が可能とみている。また、よく言われるのが、被災時のメンテナンスや損傷個所の特定に時間がかかるというものがあるが、メンテナンスは地中化においてほとんど不要と認識している。損傷個所の特定も多少の時間の差はあるが可能と、電線管理者は説明している。

正確な状況は電線管理者の情報開示を待つ他ないが、無電柱化の際に設置する地上機器(トランスや開閉器)を開けて作業をしているところをほとんど見かけない。また、最近問題になっているCAB方式(S61から実施している初期の無電柱化方式)での無電柱化をした場所の蓋が開かないという話をよく聞く。裏を返せば、数十年経っても蓋を開けたことがなかったということだろう。さらには、地中配管やケーブル等は防水加工がなされていて、水に強く、地下水等の侵入にもほとんど影響を受けないようになっている。

国土交通省HPより引用

こうしたことを踏まえても、初期投資の高額な部分はあるが、長いスパンで考えたときにその投資は、我々の財産や生命、快適な生活を保障するためのライフラインの強靭化を図るための費用と捉えて、進めていく事が肝要だと言える。

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